譲渡制限株式とは?メリット・譲渡方法を解説
監修弁護士
河合 弘之
譲渡制限株式とは、その名の通り「他者への譲渡が制限されている株式」を指します。譲渡制限株式を発行することでメリットは多く存在しますが、一方でデメリットについても十分理解しておく必要があります。
この記事では譲渡制限株式の特徴から譲渡制限株式の譲渡方法や注意点を解説します。
目次
-
1.
譲渡制限株式とは
-
2.
譲渡制限株式のメリット・デメリット- 2-1.譲渡制限株式のメリット
- 2-2.譲渡制限株式のデメリット
-
3.
譲渡制限株式の譲渡方法- 3-1.譲渡承認請求を行い会社の承認を得る
- 3-2.譲渡承認請求の例外
-
4.
譲渡制限株式の注意点 - 5.まとめ
1. 譲渡制限株式とは
譲渡制限株式とは、譲渡に関して一定の制限がある株式のことです。
具体的には、会社の定款に「当会社の株式を譲渡により取得するには、会社の承認が必要」(株式の譲渡制限)といった規定を定めている会社の株式を指します。そのため、譲渡制限株式が設けられた会社の株式を譲渡する場合、取締役会設置会社は取締役会の承認、それ以外の会社は株式総会での決議が求められます。
一般的に、設立して間もない企業や中小企業の発行株式は、譲渡制限株式であることがほとんどでしょう。以下の記載は、その会社の発行株式の全部が譲渡制限株式である場合を前提とします。
2. 譲渡制限株式のメリット・デメリット
では譲渡制限株式を発行することで、どんなメリット・デメリットが生じるのでしょうか?
2-1. 譲渡制限株式のメリット
・会社の乗っ取りを防げる
株式には基本的に「議決権」と呼ばれる権利がついています。議決権とは、株主が株主総会で賛成もしくは反対の投票ができる権利のこと。議決権をある一定数保有すれば、経営権を握ることもできます。
したがって、株式が自由に譲渡できる場合、別の企業が知らぬ間に議決権を増やし、自社の経営に大きな影響を及ぼす可能性も考えられるでしょう。
株式の譲渡制限は、こうした会社の乗っ取りを防ぎ、経営権を守るための手段となります。
・役員の任期を延長できる
基本的に取締役や会計参与の任期期間は2年、監査役は4年と会社法で定められています。
しかし譲渡制限株式を発行する企業では、定款にそれぞれ10年までの任期延長を記載でき、役員任期の延長が可能です。
・取締役会が設置不要
譲渡制限株式を設けていない企業では、取締役会の設置が義務付けられています。一方、譲渡制限を設けている企業では原則として(監査役会などを設置していない限り)、取締役会を設置する義務がありません。
・後継者に株式を集められる
株式の譲渡制限を設けておけば、譲渡の際に会社の承認が必要となり、意図しない第三者に株式が渡ることを阻止できます。また「誰が」、「何株」持っているかを把握しておくことも可能です。
これにより事業継承の際、後継者に株式を集めやすくなり、経営者の存在を明確に示せるとともに、株式の所在を明らかにできるでしょう。
・株式総会の手続きが簡素化できる
株式の譲渡制限を設けていない企業では、株主総会を招集する際に、開催日の2週間前までに書面などで招集通知を発送することが原則として定められています。
一方、譲渡制限を設けている企業では1週間前まで、あるいは定款でその期間を短縮した場合はさらに短期間での通知により、株主総会の招集が可能です。
2-2. 譲渡制限株式のデメリット
・売渡請求権による乗っ取りの可能性がある
譲渡制限株式は、原則、売買や贈与等により特定の権利・義務を個別的に承継する「特定継承」のみに適用する決まりとなっています。一方で相続や合併等により、権利・義務の一切を包括的に継承する「一般承継」は対象となりません。
そのため譲渡制限株式について、相続や合併等の一般承継が発生した場合、会社にとって好ましくない第三者があらたな株主になることを防ぐため、定款で定めることで、株式の「売渡請求権」の制度を採用することが認められています。この制度が定款で定められている場合、会社は、株主総会の特別決議により、相続により株式を取得した者に対して、その株式を会社に売り渡すよう請求することが可能となります。
しかしこの売渡請求権は、相続で株式を取得し、先代経営者から事業を引き継いだ後継者に対しても発動できてしまうのです。
株主総会で特別決議を得られれば、後継者に対しても強制的な売り渡しを通知できます。このようなことが起きやすいのは、当該株主総会において、当該株式を取得した者(相続人)は議決権を行使できないとされているためです。よって、後継者に対して不満を持つ役員たちが相続クーデターを起こし、会社の乗っ取りを企てる可能性も考えられるでしょう。ただし経営者だけが株主の状態であれば心配のないデメリットです。
3. 譲渡制限株式の譲渡方法
譲渡制限が付された株式を譲渡する方法について解説します。
3-1. 譲渡承認請求を行い会社の承認を得る
譲渡制限株式の株式譲渡を希望する株主、または株式の買収を検討している買い手は、会社に対して「株式譲渡承認請求」を行う必要があります。譲渡承認請求は、株式の譲渡側・取得側いずれからも行えます。ただし、取得側が承認請求する際は、原則として株主と共同で承認請求を行わなければなりません。譲渡側は、単独での承認請求が可能です。
譲渡承認請求を受けた企業は、取締役会(取締役会非設置会社であれば株主総会)を開催し、譲渡を承認するかどうかを判断します。なお、企業側は譲渡請求を受けてから2週間以内に「承認・不承認」の通知をしなければなりません。2週間以内に通知を行わなかった場合、譲渡の承認を決定したものとみなされます(みなし承認)。
承認された場合には、株主間で「株式譲渡契約」を締結し、会社に対しては「株主名簿の名義書換請求」を実施。株式譲渡側・譲受側が共同で、会社に対して株主名義を「新しい株主の氏名」に書き換えるための請求を行います。
仮に株式譲渡が不承認とされた場合でも、株主は株式の譲渡を一切できないわけではありません。
承認請求時に請求者側が不承認の場合に備えて、「会社もしくは指定買取人による買取請求」を行なっているケースがあります。
その場合は、不承認後、買取請求の手続きに進みます。「会社が買い取る」場合は、株式総会を開いて特別決議で決定。「指定買取人が買い取る」場合は、定款に定めがある場合を除いて、「取締役会設置会社」では取締役会の決議、「取締役会非設置会社」では株主総会の特別決議で決定します。
3-2. 譲渡承認請求の例外
譲渡制限株式の目的は、会社にとって好ましくない人物が株主になることを阻止する点にあります。そのため譲渡の際には会社の承認が求められ、譲渡承認請求が必要となります。
しかし、株主が1名の会社において、株主が他者に株式を譲渡した場合には、判例上、取締役会の承認がなくても、会社との関係でも譲渡は有効とされています。
4. 譲渡制限株式の注意点
最後に譲渡制限株式において、留意すべき注意点についてまとめます。
4-1. 会社の承認を得ずに行う株式譲渡は無効になる
定款において株式の譲渡制限が定められている場合、会社の承認を受けずになされた株式譲渡の効力について、判例では「会社に対する関係では効力は生じない」と解されています。従って、定款において譲渡制限の定められている場合には、会社の承認を受けない限り、会社に対しては株主の権利を行使できません。
4-2. 株券発行会社の場合、株券が必要になる
株券発行会社では、株式を譲渡する際に株券を交付しなければ、譲渡の効力が生じません。
株券発行会社における株式の譲渡は、株券の交付をもって、会社以外の第三者に主張することができます。また株式の譲渡を会社に主張するには、株主名簿の名義書換が必要です。
4-3. 相続時に会社が乗っ取られる可能性がある
「売渡請求権」の制度は、株式が望まない相手に渡ってしまった際に売渡を請求できる権利であり、譲渡制限株式にとってメリットのある制度でもあります。
しかし、前述の通り、「売渡請求権」は相続人である後継者に対しても発動できます。そのため取締役や株主が結託して売渡請求権を行使した場合、後継者は株式を売り渡さなければならず、相続時に会社が乗っ取られる事態に陥る可能性もゼロではありません。
5. まとめ
譲渡制限株には多くのメリットがある一方で、経営権を失うような大きなデメリットも存在します。非常に専門的な知識が求められ、取扱いにも注意が必要です。
さくら共同事務所ではこれまで株式譲渡におけるさまざまな事例を取り扱っています。相談は随時受け付けておりますので、ぜひお気軽に専門家への相談をご検討ください。
株式の売却、相続に関することならお気軽にご相談ください。
弊所は非上場株や譲渡制限株の売却ができず苦しんでいる株主へのサポートや、相続税の支払いの為、発行会社へ買取りを打診したが「応じない」「不当に安い価格を提示する」企業への交渉を得意としています。
相談は無料ですのであなたの今のお悩みをまずはお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
様々な難事件、大事件への対処を得意としており、強大な敵や困難にも立ち向かい成果を挙げ続けた実績のある「逆襲弁護士」です。